はじめに
「お好み焼きって大阪のやつでしょ?」——広島出身の友人にそう言ったら、ものすごく残念そうな顔をされた。その一件から数年後、実際に広島を訪れて本場の一枚を口にしたとき、自分がいかに無知だったかを思い知らされた。
広島風お好み焼きは「混ぜて焼く」関西スタイルとは根本的に異なる、完全に独立した食文化だ。今回は広島市内を2日間かけて食べ歩き、そこで学んだことを余すことなくまとめていく。
広島風と関西風、何が違うのか
最大の違いは「層を重ねる」こと
関西スタイルは生地・具材・卵をボウルで混ぜ合わせてから焼く「まぜ焼き」だ。これに対し広島スタイルは、薄く広げた生地の上に千切りキャベツを高く盛り、もやし・豚バラを重ね、さらに焼きそば(または中華麺)を乗せてひっくり返し、最後に卵を絡める「重ね焼き」が基本形となる。
この積み重ねの技法が、広島風独特の「外はパリッと、中はふんわり、麺はもちっと」という複雑な食感を生み出している。
麺が入るのが当たり前
広島風には焼きそば用の蒸し麺が標準で入る。「麺なし」をリクエストすることもできるが、地元では麺ありが圧倒的多数派だ。麺の量や焼き加減は店によって個性が出るポイントで、カリカリに焦がすのが好きな人と、ふわっと仕上げる派に分かれる。
ソースへのこだわり
広島では「オタフクソース」が絶対的な地位を持つ。甘みと酸味のバランスが絶妙で、他のソースでは「なんか違う」と感じるほど広島風の味はオタフクに最適化されている。仕上げにかけるマヨネーズについては「かける派・かけない派」で地元民の意見が割れる面白い文化がある。
広島市内の食べ歩きエリア
お好み村(流川通り)
広島市中心部にある「お好み村」は、1945年の原爆後の闇市から発展した屋台文化の流れを汲む施設だ。ビルの2〜4階に約25店舗が集まっており、複数の店を食べ比べるには最適な場所。各店がそれぞれの「流儀」を持っており、同じ広島風でも味が異なることに驚かされる。
夕方から深夜にかけてにぎわうため、夜の訪問がおすすめだ。
広島駅周辺「ekie」内の店舗
旅行者には広島駅直結のショッピング施設「ekie」内にある店舗も便利だ。新幹線の待ち時間に本場の一枚を味わえる。ただし地元民は「観光客向けの値段」と少し割高に感じる場合もあるため、あくまで時間がないときの選択肢として活用したい。
横川・庚午エリア(地元感が強い)
横川駅周辺は観光客が少なく、地元民が日常的に通う店が集まるエリアだ。昼時に訪れると地元のサラリーマンや学生でにぎわっており、値段も良心的な店が多い。「観光地価格」ではなく「日常の食事」として食べたいなら、こちらのエリアが断然おすすめだ。
実際に食べて気づいた「食べ方のルール」
鉄板の上でヘラを使って食べる
広島のお好み焼き店では、皿ではなく鉄板の上で提供されることが多い。付属の「コテ(ヘラ)」を使って切りながら食べるのが本来の作法だ。最初は戸惑うが、慣れると鉄板が天然のホットプレートになって最後まで温かく食べられるメリットに気づく。
ソースは自分でかける
多くの店では焼き上がった後にソースをかけてくれるが、追いソースは自分でやるスタイルの店もある。テーブルに置いてあるオタフクソースを遠慮なく使おう。かけすぎるくらいがちょうどいい、という地元民の意見も多い。
食べ終わりまでコテで押さえながら食べる
焼きたての一枚はキャベツの水分でやや崩れやすい。コテで軽く押さえながら食べると麺がパリッと保たれる。この「コテ使い」が上手くなるとお好み焼き食べ歩き上級者の証だ。
広島風お好み焼きの歴史
現在の「重ね焼きスタイル」は戦後復興の食文化から生まれた。1945年の原爆投下後、食材が乏しい中でキャベツや麺を積み重ねて一枚から多くのカロリーを得る工夫が「広島流」を形作った。
長年にわたって受け継がれてきたこのスタイルは、2012年に農林水産省が選定する「農山漁村の郷土料理百選」にも選ばれており、日本を代表するローカルフードのひとつとして位置づけられている。
まとめ
広島風お好み焼きは「大阪のお好み焼きの一種」ではなく、完全に独立した別の料理だ。重ね焼きの技術、蒸し麺の食感、オタフクソースの甘み——これら全てが合わさって初めて「広島の味」になる。
広島を訪れる際は、ぜひ1日目の夕食と2日目の昼食の両方でお好み焼きを食べてほしい。二度食べても飽きない奥深さが、この料理の最大の魅力だ。
参考情報
- お好み村(広島市中区新天地5-13)
- ekie(JR広島駅直結)
- オタフクソース株式会社 公式サイト
- 農林水産省「農山漁村の郷土料理百選」